浦原 | ナノ
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▼ 千年血戦篇1

見えざる帝国と名乗る滅却師により、雀部副隊長が亡くなった。隊葬を終え、そう日が経たないうちに侵略しにきた見えざる帝国に、二番隊、六番隊、七番隊、十番隊の隊長が卍解を奪われてしまったらしい。緊急時と言うことで技術開発局に所属していないわたしも局に呼び出され、敵の分析に勤しむ周りの手伝いに追われていた。卍解を使用すれば奪われる。そんな状況で、強大な敵とどうやって戦えばいいのか。前線に向かった涅隊長はここにはおらず、バタバタとしている技術開発局の指揮は阿近が取っていた。

「黒崎一護に回線を繋げ…!」

卍解を奪われた隊長格が敵に対抗できずにいる今、これまでも劣勢を打破してきた死神代行の彼に頼るしかない。そう判断した阿近が代行証を介して黒崎一護に連絡をとろうと試みるものの、何故か彼は虚圏にいるらしい。その手引きをしたのは、当然浦原隊長だった。おそらく浦原隊長も同行しているだろう。そう考えて、浦原隊長に回線を繋ぐように指示する阿近。少しのコール音のあと、ハイ、と耳に馴染んだ声が聞こえてくる。

「あ、どうもっスー阿近サン。お久しぶりっスねぇ。どうっスか調子は?」

緊急事態と説明して話をしようとする阿近を完全に無視してのんびり喋る浦原隊長。この人今虚圏にいるんじゃないのだろうか。いくらなんでものんびりしすぎでは。

「え?アタシっスか?アタシの方はまァボチボチ…」

「どこに耳ついてんだ!!緊急事態だって言ってんだろうが!!あんたの話なんか聞いてねえ!!」

こんなにペース崩されている阿近を見るのは久しぶりだった。みょうじ!代われ!と阿近と場所を替わらされる。わたしも真面目にこの人と話せる自信はないのだけれど。しょうがなく大きく息を吐いてから声を出す。

「……浦原隊長」

「あっれーなまえサンじゃないっスか!お元気です?アタシに会えなくて寂しがってません?」

「まったく。それより浦原隊長」

「もぉ、喜助さんって呼んでくださいって言ってるじゃないっスかぁー!」

「黒崎一護に代わってください!!」

本当に話の通じない男である。他の男の名前を出すのは浮気だとか続ける浦原隊長にいい加減にしてください!と怒鳴る。浮気も何も付き合ってない。もう軽口にはさすがに慣れたけれど、技術開発局の面々が見ている中でそういう話はしたくない。しかし黒崎一護は何故か虚圏で滅却師と戦闘中らしい。しかも隊長たちが苦戦している滅却師に対して、黒崎一護が押しているとのことだ。なぜか黒崎一護からは卍解を奪うことができないようで、それを聞いた阿近がわたしを押しのけた。おい。だったら途中で諦めずに最後まで自分で話して欲しい。戦いに割りこんで黒崎一護を尸魂界に送るように言う阿近に軽い調子で無理だと告げる浦原隊長。あの人が負けているところなんて当然予想もできないけれど、他人の戦いに割りこむとなったらまた話は別なのだろう。そもそも力押しは得意ではないと本人が言っていた。

「尸魂界に侵入者があったのは分かってます。こっちに連絡してくるって事はそれなりの事態になってる筈だ。最初の質問に戻りますよ。どうなんスか?そっちの調子は?」

なんでもお見通しのこの人に、阿近が息をのんで現在の状況を説明する。侵略から7分間で1000人もの隊士が死に、隊長格の卍解が奪われているこの危機的状況。わたしたちがいる技術開発局だっていつまで無事でいられるかはわからない。わかりました、とだけ言った浦原隊長は、なまえサンいます?とわたしを呼んだ。

「はい」

「なまえサン、怪我しないように気を付けてくださいね」

「……その言葉そっくりそのまま返します」

虚圏にいるということだけで十分危ないのに、虚圏にまで滅却師の侵略は進んでいる。いくら浦原隊長が強いからって、絶対に生きて帰れる保証があるわけじゃない。こんな緊急事態に何を言っているんだと思わなくもないけれど、この2年、離れた距離を埋めようと時々わたしと接触を図るこの人のおかげで、この人がわたしを大切に思ってくれていることは感じている。

「死んだら嫌いになりますから」

「……そりゃ、絶対に死ねないっスねぇ」

そんな軽口を叩いたあと、戦闘中の黒崎一護の戦いに介入したらしい浦原隊長が通信機を黒崎一護に渡したようだ。阿近が現在の状況を簡潔に説明し、浦原隊長が穿界門を開いたのが技術開発局の機器で観測できた。卍解を奪うことのできない黒崎一護。彼が来れば、きっとなんとかなるはずだ。戦闘力の低いわたしにできることは余りに少ないけれど、通信から離れて局内を駆け回り局員が求める道具やデータを差し出していく。現時点で席官含めて2500人もの隊士の霊圧が補足できなくなった。その中には三番隊の吉良副隊長もいる。怪我しないで、と通信機越しに聞いた声を脳内で繰り返し、絶望しそうな心を奮い立たせた。その時、ドォン、という轟音とともに技術開発局が半壊する。様子のおかしい兒丹坊の姿が現れ、次々と局員が倒れていく。鵯州が局を封鎖して退避させようとするも、何故かリンがその鵯州を刺していた。兒丹坊といいリンといい、敵の能力に操られているのは一目瞭然ではあるが、どうして。爆音が響く中では敵のせいで黒腔に閉じ込められた黒崎一護を救出することもできない。

「逃げるぞみょうじ!」

阿近に連れられて技術開発局を出る。山本総隊長が戦う霊圧を感じるが、それどころではない。わたしの斬魄刀を解放して姿をくらまそうとするも、現時点で誰が敵なのかもわからない。リンや兒丹坊のように操られた人がいるかもしれない。わたしひとりで逃げたところで何もすることはできないけれど、誰を助ければいいのか。ぐ、と唇を噛む。とにかく、黒崎一護を。彼を。消えていく総隊長の霊圧に、尸魂界中が動揺するのを感じる。必死で逃げたものの、わたしも阿近も、何かわからない敵からの攻撃によって地に伏せた。せめて、せめて阿近だけは。意識を失った阿近に回道を施し、阿近が目を開いたのを確認して、わたしの意識は闇に落ちて行った。


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